前半は、ゲストの方々に「住み開きに関わるようになった背景」についてお話しいただきました。
小山田さんは、もともと「ダムタイプ」というパフォーマンスグループで舞台美術を専門にされていましたが、メンバーの一人がHIVに感染したことをきっかけに社会的な活動・議論を開始し、人が集まる共有空間の開発にも次第に関わるようになりました。その後も週末だけ開催される「ウィークエンドカフェ」を開き、福祉等、幅広い分野からの人材の参加を促したり、カフェマスターとお客さんの間にある「提供する側/される側」の壁をお客さんにカウンターの中に入ってもらうことによって取り払う、といった試みを続けていく中で、共有空間を施行する喜びに夢中になったといいます。
渡邊さんは、自宅借家をカフェ「太陽」として開放していた前任者の後を継ぎ、その借家に移り住んで、週末だけ「太陽2」を運営されていた経験があります。お客さんにコーヒーを提供するだけでなく、一緒に社会について話し合ったり、時には閉店時間を過ぎても居座られたりしながら、プライベートな部分とパブリックな部分の兼ね合いの難しさや面白さを存分に感じたそうです。そこで生まれる交流は本業の社会学研究にも良い影響を与えていました。大学の仕事が忙しくなってムリをするようになると立ち行かなくなり、残念ながら「太陽2」は閉店となりましたが、現在も「場を運営する面白さ」に惹かれて多彩な活動をされています。
「♭」のオーナーでもある花村さんは、ランドスケープ(風景)デザイナーという職業柄、風景の中に存在する物体のデザインだけでなく、イベントやワークショップを行ったり、風景に対する人の視点を意識的に変えていく様々な方法を編み出し、建築、共有空間、舞台セット、映像など、多領域で風景をデザインしてこられました。その活動の一環として、「押し付けられたものではなく、建物と向き合いながら自分で場を獲得していく住み方」を提示するため、「♭」の改修を友人達と共にスタートされ、今後は「♭」と空き住居との空間をつないで、スペースを拡張することも考えられているようです。
後半は参加者の皆さんも交えて、住み開きについてフリートーク。ハード/ソフト両面に渡る話し合いとなりました。
「空き住居を皆さんが利用するとしたら?」との小山田さんの問いかけからスタートし、「ユースホステル」「いつも鍵があいている」などの参加者のアイデアをもとに、「不特定多数が宿泊する施設で鍵があいているのは法律的にマズいので、自分の知人を泊めるゲストルーム的な場と位置づける」「勝手に改装はできないので、手を入れてからじゃないと住めないような物件を見つけて不動産屋と交渉していく」「必要なものを捨てたり天井を落としたりして、家をシンプルな骨組みに変えていく。改修し、場を獲得するプロセスを自分達が体験することで、構造や間取りについて考える楽しみができる」と小山田さん、花村さんからハード面について具体的なアドバイスがありました。
それに対して、自宅を改修せずに住み開きをされていた渡邊さんや進行役の築港ARCチーフディレクター、アサダからは「特別な知識を持っていない人には敷居が高いのでは?」という疑問が出されました。「実際に住み開きしている人達と知り合っておくと、ノウハウや物件についての情報ネットワークができるので、もっと気軽に住み開くことができるかもしれない」と、また違った形の住み開きを模索し、議論が盛り上がります。
次にソフト面について、自己責任というキーワードが浮かび上がりました。参加者の「教師をしていたが、自宅というプライベートな場で生徒たちと交流した際、皿洗いや美味しい食事、くつろいだ時間を共にすることで、学校で出会うのとは違う関係性が生まれたことに可能性を感じた」という体験談から、「なにか手伝えるスキや余地を残しておくということが大事なのでは」と話題は広がりを見せます。「例えば、普通のカフェではサービスを提供する側/される側に役割が固定されていて、お金を払う側は丁重に扱われるしかないけれど、経済的なルールが必ずしも通じない住み開きスペースでなら、一個人としてプロセスを共有することができ、そこで初めて生まれるコミュニケーションがあるかもしれない。ただし受け身でない以上、各人に自己責任も生じてくる。それはリスクでもあるけれど、主体的に関わりたい!という心意気で乗り越えるしかない」と、住み開きスペースの持つ可能性がゲストから提示されました。
しかし、別の参加者からは「自己責任と言われるとハードルが高いと感じる」という意見も。なんとなく住み開きをやってみたいと思っている人の初めの一歩として、「たくさんの住み開きスペースに出かけてみて、アンテナを広げていくこと」「ホームパーティーの開催」といった誰もが実行できそうな助言もいただき、少しホッとしたところで閉会となりました。
今回は様々な形の住み開きが提案されましたが、決してその中のいずれかが正解である訳ではなく、その人のスタイルに応じた形の住み開きを選択できること、住み開きの持っている多様性の魅力を教えてくれたシンポジウムだったのではないかと思います。(文:秋田光軌、写真:石田峰洋、山口洋典)
次回、住み開きフィールドワーク先は…
『プロフィール展』と、FLOATで話す日
FLOATは、川沿いの工場通りにある倉庫です。2008年8月から住居兼オープンスペースとして利用を始め、不定期にイベントを開催しています。今回は、会期中の『プロフィール展』(企画:小田寛一郎/制作:FLOAT)にご参加頂きつつ、「住み開きアートプロジェクト」の文脈から場所についてもお話して、何かご一緒に考えられたらと思っています。以下に、今回のお誘いにあたってのテキストを公開しましたので、ご興味のある方はそちらも併せてご覧下さい。 http://www.chochopin.net/file/24/ 日時:2009年8月29日(土) 17時半~19時(※左記はトークの時間帯。展示は14時~20時参加可能) 参加費;無料(1ドリンク付) お申し込み・お問い合わせ: 應典院寺町倶楽部 築港ARCproject TEL & FAX:06-4308-5517 MAIL:arc@outenin.com
会場住所: 安治川倉庫FLOAT 大阪市西区安治川2丁目1-28 地下鉄中央線九条駅3番出口から徒歩10分 JR環状線西九条駅から徒歩10分 tel.090-9860-2784 通常開業時間:不定休(来店前に電話がベター) 住み開き人:米子匡司(音楽家 / プログラマ / FLOAT管理人) 1980年生まれ。トロンボーン・ピアノ・声・コンピュータなどを使った音楽制作と演奏、電子機械やコンピュータを使った物事の制作、展示やライブなどを行う。FLOAT管理人・イベント企画制作担当。堺市立中学校 総合学習『コンピュータとメディア』担当講師。音楽グループ SJQ メンバー。
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